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たびのあとさき

ソウル在住もうすぐ19年目突入

「少女像を撤去しろ」TBSニュースに見た"勇気ある韓国人男性"の背景を探る

日韓関係

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 たった一人、釜山の少女像前で、「日本を許す!」とし、像の撤去を求めて叫んでいたという韓国人男性が話題である。きっかけは次のツイートだ。

 

ニュースでやってた。ひとりで〝慰安婦像を撤去しろ〟と〝日本を許す〟と両手にLOVE JAPANの紙を持って抗議している男性。日本を批判する人は沢山いるだろう中でひとりでも立ち上がって辞めろと言われながらも抗議していて凄いと思った


 この珍妙にも映る光景、調べてみると、1月14日のTBSニュース番組【新・情報7daysニュースキャスター】で放送された映像だった。

 

 ツイート主の、映像を見ての素朴で単純な見方については、ひとまず置いておきたい。問題は、TBSの報道だ。なぜなら、この男性がわざわざ少女像の前で「日本を愛せ(LOVE JAPAN)」というプラカードを持っているのには、額面通りには受け取れない事情があり、その手がかりは、この映像の中からも伺えるからである。


 一体、TBSの取材班はこの男性のアピールの背景に気づかなかったのか、あるいは分かりやすい「美談」や「親日韓国人の苦難」にするために、意図的な切り取りを行ったのだろうか。

 

 筆者は、その場に居合わせた人から当時の状況を聞くため、釜山に向かった。

 

 その聞き取り内容を報告する前に、まずは番組内で、このエピソードがどう扱われていたのかを確認しておこう。

 

ニュース動画に映っていたもの

 

映像からの書き起こし 

ナレーター「しかし、こうした(撤去反対の)声ばかりではない。取材中、われわれはこんな場面にでくわした」 

 

プラカードを持った男性(字幕)「釜山市民として警告する! 自治体はただちに少女像を撤去しろ! 我々は日本を許す!」 

 

ナレーター「釜山市に住む男性が像の撤去を求め、一人で抗議活動を始めたのだ。そこへ通行人がつめよる」 

 

通行人(実際はボランティアで像の「守り手」として常駐しているキム・サングン氏という人)(字幕)「なぜここでそんなデモをしているんだ! あっちへ行け!」 

 

別の男性(字幕)「お前みたいな"日本野郎"はここから消えろ それでも韓国人なのか」 

 

プラカードの男性(字幕)「韓国人として要求する! あの少女像をただちに撤去しろ!」 

 

ナレーター「男性は警察官にうながされその場から立ち去ったため、取材は叶わなかったが、こうした意見もあることがわかった」 

 

 映像を見ていて最初に気づくのが、プラカードの男性(以下、仮名P氏)に釜山のなまりがないことだ。もちろん、現在釜山在住でも、釜山の国言葉を使わない人はいるだろう。ただ(後で聞き取りしたところ)キム・サングン氏を始め、居合わせた釜山の人達は、言葉の一部が(彼らから見て)自然ではないので、本気で韓国在住の日本人の可能性もあると思っていたようだ。私は、少なくとも日本人の可能性はないと考える。  

 

 この映像で確認できる、もっと重要なポイントは、男性が持っているプラカードに書かれたスローガンだ。片面には「LOVE JAPAN」とあるが、その裏には「北韓北朝鮮)解放」という、この場からすれば、唐突な印象の内容が書かれているのがわかる。 

 

f:id:tabisaki:20170123195441p:plain<写真はユーチューブからのキャプチャ>
P氏(ここでは警官に隠れて本人は見えない)が両手に掲げたプラカードが見える。左手には「북한해방(北韓解放)」右手には「LOVE JAPAN」とある。 

 

現場にいた人が感じた違和感 

 話してくれたキム・サングン氏(上のキャプチャでベージュの上着を着ている男性)によれば、P氏と言い合いになったのは、TBSのカメラがやってきたこの場面だけだったそうだ。そしてキム・サングン氏はその後、「意見は皆それぞれ違うので、尊重したい。ただ『一人デモ(法的にも事前申請の必要なく行えるデモの一形態)』なら、静かにプラカードを掲げてアピールしてほしい」と頼み、P氏もキム氏からの握手の求めに応じ、それに従ったという。

 この後、3日間、キム・サングン氏とP氏は、現場で「共存」していたらしい。一方でP氏はついぞ自分から口をきくことはなく、名を名乗ることも避けた。帰り際に「もう帰ります」と挨拶したのがせいぜいだったという。4日目にあたる日はキム氏が休んだので、来ていたかどうかはわからないが、それ以来、一度も現場では見かけていないという話だった。

  先も書いたように、キム・サングン氏は言葉遣いを根拠に、P氏が韓国人であること自体に少し疑念を抱いていた(私の判断ではキム・サングン氏の考えすぎだが、元脱北者など、別の可能性が絶対にないとはいえない)。一方キム氏は、P氏が「日本を愛する」と言いつつ、「主敵は北韓北朝鮮キム・ジョンウンだ」「キム・ジョンウンを倒せ」とアピールしていたのが印象的で、その主張と、少女像の撤去とを関連づけているのが自分には理解が出来ず不思議だったと語った。

  まったく予想通りの話だ。実はソウルの少女像近くでも、「合意」直後に、こうした傾向の人は見かけた。つまり、反共主義の立場から、日本との「反共同盟」を最重視する右派の人々である。

 

「なにはなくとも反共」という人もいる

  「合意」直後に、ソウルの少女像近くで話を聞いたある団体の代表は「朴大統領閣下は本当に難しい合意を良くまとめ上げた。安倍晋三に跪かせてハルモニ達の恨をぬぐい去り、堂々と少女像を移転してやろうではないか」と主張していた。周囲との落差が大きすぎる主張だからだろう、とってつけたような理屈を据えているだけ、主張の中心が「(合意を完成させるため)移転しよう」にあるのは明らかだった。ちなみに言えば、こうした団体は、見た目がコワモテの人も多く、服装や髪型などが醸し出す雰囲気からも周囲から浮いていた。(例えばニューライトの論客など、右翼でも「知識人」であれば、わざわざ像の現場にやってくることもないだろう。)

  今回のケースも、P氏が口にした「日本を許す」や「愛する」が文字通り受け止めて良い性格のものなのか、まずそこから疑ってかかったほうがよい事案だろう。北朝鮮を叩く上で障害になるものは何でも取り除きたい、というのが、一般的な反共右翼の姿勢である。中には、挺対協をはじめ「慰安婦」問題に関わる市民運動について「北朝鮮に操られている」といった日本の右派と共通するような認識を持ち、攻撃を仕掛けるような団体もある。

  少女像への対応に関し、韓国にも実際に様々な意見が存在している。「合意」に否定的な人の中さえ、今回の領事館前は日本との軋轢を大きくするだけで無益、との意見はある。韓国の人々の考え方を知るためであれば、色々な声を紹介するのはむしろ望ましいことと言える。

 ただ、今回の様に、少女像の前に立って「日本を許す!」と叫ぶといった、実に特殊で、おそらくは「見せる」ためにやっているアピールを、その背景に全く触れないで流すのは、これは報道機関の姿勢として問題があるのではないか。


*キム・サングン氏によれば、像の設置から3週間ほどの間に、像撤去の意見を表明しに領事館前の現場を訪れた韓国人は、本人の知る限りでは、このP氏の他に、一人だけだという。大邱から来た人物が、少女像は博物館の中に置けばいい、と主張したというもの。

<参考>番組動画
新・情報7daysニュースキャスター 20170114 2 - YouTube