たびのあとさき

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偽ニュースサイト「大韓民国民間報道」に考える、嫌韓の行き着く先

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大韓民国民間報道」なるサイトの、ニュースを装ったデマが拡散し、問題化している。検証に乗りだしたネットメディアのBuzzfeed Japanが、その後、運営者本人のインタビュー記事を掲載し、悪質なデマサイトだったことはもちろん、どのような意図で作られたかも明らかになった。

 私は、同じ運営者がこれ以前に作ったデマサイトを、知人のツイッターによる指摘で知り、その時からチェックしていた。韓国に住む人間からすれば、こんなものを信じる人間がいるのか、そっちを呆れるようないい加減な内容だった。本来はまじめに取り合いたくもないレベルである。

 

「身も蓋もない」欲望によりかかるネットニュース

 私は10年以上前、韓国の大手紙日本語版の翻訳スタッフとして、記事をピックアップする業務もやっていた。閲覧数を横目に、作業に従事しながら、ああ、ネットのニュースって危ういなあ、と思うことが常だった。その時の危惧が、最も悪い形で現実になりつつある。


 当時、アクセスが急伸する記事といえば、①日韓の摩擦で日本側を強く刺激するような見出し、とくに暴言っぽいもの、②韓国国内で起きたトンデモ事件事故、③芸能人の結婚・離婚や不倫スキャンダルなどだった。

 要は「おいおい韓国はどこまで日本をなめているのか」とか「やっぱり韓国は三流国」というイメージが一発で沸くような見出しでこそ、大きな収益につながる。当時隆盛を極めていた匿名掲示板2ちゃんねるの専用スレッドでの盛り上がりと、リンクしている印象だった。


 ネットのメディアは、まともなところでも、もともと、そういう閲覧者のある種「身も蓋もない」欲望に、収益を頼っているところがある。取り上げる話題の取捨選択に影響を与えない訳がない。雨後の筍のように生まれたニュースサイトは言うまでもなく、一般の人も、その傾向を知りつつウケそうだと思ったらSNSに流す。


 そこに、ここ10年ほどで定着した嫌韓需要がある。今は嫌韓が一部のコア層だけでなく、一般にも薄く広く蔓延している。嫌韓感情・差別を積極的に煽りたいという在特会などの系統のヘイトと、自国への閉塞感の裏返しとして、韓国を見下してすっきりしたいという「大衆的」な嫌韓ムードとの間に、もう境界線がなくなっているのではないか。


 条件もそろっている。日本の話題なら、いい加減なことを書くと訴えられたりするが、韓国ならその心配がない。日本の週刊誌などがしつこく韓国をけなす話題を載せるのも、スキャンダラスな話題を作るのにリスクもなく、お手軽に読者を引き寄せられるから。


 SNSで怪しげな虚実ない交ぜの、しかし名の通った既存メディアの記事が出回って話題になる度に、どんどんハードルが下がってきているのが現状だ。既存メディアもむしろ、ネットのいかがわしさに迎合している。

 

嫌悪の前には、デマも正当化される

 最近、MXの番組「ニュース女子」が沖縄の辺野古・高江の基地反対運動について酷い偏向報道を行った。同番組を見て実感したのは、制作陣が、嘘がばれることを全く恐れずに作っているという事実だ。俺たちはこれが言いたいんだ、これを聞きたい連中がいるんだ、というのが全てで、ニュースはファクトに基づかないといけないという前提すら見あたらない。

 今回のデマサイトは、日本に関する地名や大学名とかまででまかせだが、大手メディアの番組にも先のような風潮が見られるのだから、このサイト運営者が嘘を発信することに悪びれるところが見あたらなくても不思議ではないかもしれない。


 ファクトなんかどうでもいい、韓国をけなせればいい、という需要側の心理は、拡散に手を貸した桜井誠氏のツイートに良く表れている。

 

「朝方の紹介したニュースURLが虚構だったとの話がありますが『韓国ならばさもありなん』という話を持ってきたということです。まず虚構記事を掲載した側を責めるのが筋ではないでしょうか?虚構記事を出した側が謝罪しない限り、本物として取り扱います」


「普通に考えて仮に朝方のニュース記事が虚構だとした場合その虚構記事を流したほうが悪いと思うのですか?しかも今現在に至っても虚構記事を流した本人から謝罪も釈明もないから本物の記事として見なすと言っているだけです」

桜井誠氏の1月20日のツイートから>

 

 自分にデマを拡散した責任はないとばかりに、うそぶいている。


 サイト運営者のほうはと言えば

「デマや噂なんてこの世にありふれている。それに踊らされるのは個人の問題ではないでしょうか。噂を流した側の責務ではない。これからもデマはでき続けるはず。収益化できるかは別ですが」

〔上掲のバズフィードによる取材記事からの引用〕

と、こちらも責任を放棄している。しかし彼のデマは、全てが計算ずくなのだ。

 本人は、韓国について「好きも嫌いもない」(上掲記事)と言いながら、嫌韓ニーズを今の日本社会の需要としてのみ捉え、機械的に「釣れる」記事を作っていった。妄想に突き動かされてではない。冷徹な(?)現状分析を経て、アメリカ大統領選で話題になった「フェイクニュース」のビジネスモデルを日本に移植するなら、需要のあるテーマは嫌韓しかないと踏んだわけである。


 残念ながら、その読みは正しかったのかもしれない。デマとわかった後でのネットの反応にも、「この記事はデマだったかもしれないが、実際こういうことがたくさん起きてる国だから、こんな話をみんな信じる」という奇妙な論理を見かけるのだから。デマでも、嫌いな相手についてなら、特に問題ないという感覚。嘘でも読みたいニーズがあるし、嘘であることが露呈しても、韓国に対する憎悪を増幅する役割は十分果たせてしまっている。

 

デマを放置すれば、かつて来た道に

 偽記事「日本人女児強姦事件に無罪」の拡散現象には、日本ではいかにリスク無しに、他者を差別することができてしまうのかが、よく表れている。差別丸出しの嘘を、そうと知りつつ公にばらまけば、社会的に一発で終わる、そういう常識が確立できていないから、実名でやっているFBなどのSNSでも気易く拡散できる。


 このまま進行すれば、例えば関東大震災の時の朝鮮人虐殺であるとか、中国への蔑視を煽られて侵略戦争を肯定化した戦前の民意とか、そうした過去の危ない空気が再現しても何の不思議もない。たかが個人の作った偽サイト、などと見過ごしてしまっては、非常に危険なのだ。今回の件を機に、デマ拡散の深刻性についての議論が活性化することを願う。

 


<参考>

ページビューを伸ばすのに荷担しても仕方ないので、同偽ニュースサイトはリンクしません。検索すると出てきますので、閉鎖される前に一度見ておくのもよいかと思います。